トップページ > 研究論文収録 > うつ病社会における仏教者のカウンセリング うつ病社会における仏教者のカウンセリング発表者 楠山 泰道 0 . 問題の所在 1 . うつ病・引きこもり社会の現状を把握する 2 . 我々は宗教者としてこれらの相談にどのように対応するか うつ病・引きこもり社会の現状を把握する
我々は宗教者としてこれらの相談にどのように対応するかうつ病・引きこもり社会の現状を把握する(1)社会的不適合競争社会の激化・ストレス社会…「こんな社会と関われない」…関係破棄と脱落
*ひきこもり・退却は、もはや青少年世代に限られる社会的病理現象ではない。ひきこもり・退却という現象を最初に起こしたのは、高度成長が頂点に達しややかげりが見え始めた80年代のいわゆる「オタク世代」である。彼らの年齢はすでに40代に達している。無職で結婚経験がなく、無目的で、自分の部屋の中で昼夜逆転の生活を続け、すでに老齢に達した母親が生活の面倒をみるなど悲惨な状態の家庭が、目にはつかないが着実に増えている。 このように「ひきこもり・退却」という社会病理は世代を越えて、日本人のあらゆる年代と階層に生じているものであり、また、かろうじて社会へ関わっている人たちにおいても、全く同じ要因によってストレスによる心因性の病気を発症している人が現像している。「うつ病」は、そうしたストレス原因の心因性の病気の代表である。 (2)「成長モデル=理想としてのオトナ像」の喪失
*90年のバブル崩壊は、日本の経済の崩壊に限らず、さまざまな戦後の社会システムの形骸化をもたらした。「家族の崩壊」もその一端である。戦後的家族モデルは、70年代半ばの生活保守化の流れの中で成立した「サラリーマン−専業主婦」と呼ばれる核家族である。サラリーマン=企業に勤務父親、専業主婦=家事・育児に専念して家庭を支える母親、子ども=次世代の産業人としての知識・技術・資格を得るために就学する児童・生徒・学生というように、一定の存在目的が与えられていた。この体制が高度成長の終わりとともに一挙に崩壊したが、それに代わる新しいモデルはまだ構築されていない。 社会の変革によるところのモデルの喪失は、それは多様化ということでもあるが、どうしても、価値のアノミー状態を招く。現在がその状態であることは否めない。 (3)「不安」の時代
*子どもたちや青少年の問題行動ばかりが注目される傾向にあるが、実は、中高年の親たちの世代の不安やフラストレーションの方がむしろ大きいと言えるし、また、親たちの世代の不安や苦悩が次世代の子どもや青少年の心理や行動に「転移」して現れているという見方をする方が自然かもしれない。実際に、子どもに問題行動を起こして相談に訪れる親たちの方をよく調べてみると、何らかの心因性の病理を抱えていることが多い。 (4)「私はダメな人間だ!」「私は無価値な存在だ」…気分障害と不安神経症
*管理が進行し、かつ、偶然性が少ない社会(自分の将来についての先の見通しが簡単についてしまういわゆる“夢のない社会”)は、同時に息苦しさを感じる機械的な社会であり、いわゆる非人間的なストレス社会である。こうした環境に適応するためには、リスク回避に関して緻密な計算力と自分を支える強い精神力が必要であるが、誰もがそれを持ち合わせることはできない。また、失敗に対して挽回することを待つという許容力を失っている社会でもあり、一度の失敗からなかなか立ち直れない人を多く生み出す。そのような人たちの中で、上記のような心的障害を生み出す確率が極めて高くなって来ており、また、正常と異常のどちらとも判断できない「境界性****障害」と見受けられる人はさらに多いと言わなければならない。 (5)パラサイト・シングル1,000万人/「自己愛性人格障害」数十万人という時代
(6)青少年をめぐる問題
我々は宗教者としてこれらの相談にどのように対応するか(1)理念a : 仏教者のカウンセリングにおける救済・支援とは、基本的に「抜苦与楽」である。相手の価値への固定観念に由来する「苦」を除くことで、「安心」を与えることでなければならない。 b : 仏教者のカウンセラーとしてのクライアントに対する態度の基盤は、「同悲」である。クライアントの訴えを充分に聞き理解しつつ、ともに悩みを共有しなければならない。 c : 仏教者のカウンセリングの目的は「伝道」であり、「下種結縁」である。相手にともに久遠実成本師釈迦牟尼佛を仰ぎ見る存在であることを教え導き、「仏の子」たるの自己認識に安住させることを目的にしなければならない。(*ただし、日蓮宗や自分の寺の檀徒として“勧誘”することではない) d : 仏教者のカウンセリングにおける通常の方法は、「摂受」であり、本人の主体的な“気づき”に至らしめることを目標とし、治療ではなく、自然的な精神的な「成長」の促しを促進するものでなければならない。 e : 仏教者のカウンセリングの危機介入における方法は、「折伏」である。クライアントの「生命」を価値の最上位とし、「身体」を中位とし、家族や社会的立場を次位として、その優先順位に従って治療的介入をしなければならない。 f : 仏教者のカウンセリングが目指す最終地点(問題解決の境界)とは、クライアントの「自立」である。「自立」とは、「蘇生」であり、本来的な自分自身を自分に取り戻すことでなければならない。 (2)初期対応/来談者中心療法を援用してa : 相談者の「不安」への対応 相談者は心の中に大きな不安を抱えている。しかも、これまでに誰にも話せなかったことで非常に苦しんで来ている。そのことをよく察知して、まずは相手の立場に共感することに撤する。 b : 相談内容をよく聴くこと カウンセリングの行為とは相手の心の動きに自分の心を合わせることを言う。相手は、自分の話を聞いてもらえた、分かってもらえたということで、まずは安心を覚える。したがって、最初は何のコメントや意見を与えずに、ただ相手の話に頷きながら聴くことに撤する。 c : 家族関係の把握・本人のこれまでの歴史・(*とりわけ通院歴・使用薬物)についての把握 人間の悩みや不安は、環境や様々な条件が複合的に重なり合って作り出されるものである。したがって、悩みや不安の直接的内容ばかりではなく、本人の家族関係の問題(とりわけ父親・母親との関係)や生育歴、自分の性格形成などの歴史について本人から話させる必要がある。 また、お寺へ相談に来る前に、かなりの確率で病院やクリニックの神経内科・精神科・心療内科などへに通院していることが考えられる。そこでどのような診断がなされたか、また、どのような治療薬(*治療薬によって医師が概略本人の病状をどのように判断しているかが分かる)が施薬されているかを尋ねておくことも大切である。 d : 次回のカウンセリングへのつなぎ カウンセリングは、個人差はあるが、一回で終了することはまれである。話し→整理→確認のサイクルを繰り返すことによって、次第に本人の中で問題の把握の仕方が了解されていくことで快方に向かうものと考える。したがって、次回までの課題を与えてそれについて考えて来るように指示する。 さらに大切なことは、例外的状況を除外して、問題を最終的に解決するファクターになるものは家族や友人などの周囲にいる人たちである。したがって、次回以降は、そうした複数の家族を交えた「家族カウンセリング(家族療法)」へ移行することを本人に伝え了承を得る。この場合、「家族カウンセリング(家族療法)」とは、問題の発生の背景を家族のコミュニケーションの問題と捉えて、“家族全体の成長/家族のきずなの修復”を促すことで問題の解決を図ることを目的にするものである。 e : ◇複数のカウンセラーによる事例検討会・スーパーバイジング 我々は、宗教者であって資格を有する心理臨床に関しては素人である。したがって、一つの相談を受けたならば、その事例を複数のカウンセラーとの合議にかけて検討するべきである。また、必要に応じて、精神科医・心理臨床士などの専門家にアドバイスを求める必要もある。 また、初期対応の非説得型のカウンセリングは、カウンセラー自身の心的ダメージが大きく、想像以上にストレスを受ける。このストレスの蓄積を放置すると次回のカウンセリングがうまく行かない可能性もある。事例について自分がどのように感じたかを第三者(スーパーバイザー)に話すことで、ストレスを軽減しておくことが求められよう。 f : ☆簡易チェック・リスト/DSN−Wリスト (3)展開段階a : 問題の本質を概略理解した時点から、非説得型から指示的カウンセリング(行動療法援用)に移行する。ただし、この移行についてはクライアントならびに家族の承諾を得なければならない。 b : 展開段階における指示型カウンセリングとは、本人が自律的自己改善(エンパワーメント=自己活性化)が比較的可能な項目(小さな目標)について、その思考的欠陥や欠如を指摘して改善を促すことである。言い換えれば、これまでの人生の経験値から生じている偏った思考パターンの“編集のやり直し”ということであり、カウンセラーの自己の体験、過去のクライアントの経験、そして、釈尊や日蓮聖人の経験などを豊富に語ることで、その実現を目指す。 c : クライアントは、その苦悩が自分自身の悪い点や状況の悪さに由来すると思考しがちである。エンパワーメント(「自信」の回復と強化)の促しとは、まずはそのような悲観論の連鎖・悪循環の有り様を客観的な立場から指摘して、思考の回路を訂正することに繰り返し施療することで達成させる。そのためには、様々なパターンの命題設定(シミュレーション)を行って、それをどのように考え解決していくかについて助言しながらすすめる。この繰り返しの中から、自己の思考パターンの性癖の改善を自覚させる。 d : 中間期の最終目標は「なりたい自分(変容したい自分)」の発見の促しである。「あるべき自分(変容すべきモデル/理想としての自分)」をクライアントとの対話の中から見いだし、最終的に「なり得る自分(変容可能な自分)」との距離を説得と話し合い(家族の希望を含めて)によって次第に縮めていくことを支援する。 (4)最終段階a : 基本的に、自分でやっていく「自信」ならびに「意欲」、「責任意識」が形成された時に、カウンセリングは終了する。しかし、この中間期において、様々に指示されたこと、指摘されたことが今度はトラウマになるのであって、それらを解消することが必要になる。したがって、これまでのカウンセリングの経過をもう一度振り返り、それらが危機介入における非常手段であったことを説明し了解を求める。 もう一つの予後の問題点は、カウンセラーへの依存の「転移」の解消である。クライアントがカウンセラーを信頼するということの中には、カウンセラーへの依存が要素として強くなるということでもある。この依存心理からクライアントを解放するためにも、経過の説明が欠かせない。 b : “これまでの問題”については解決されたが“これからの困難や課題”が起こった場合にどのように対応するかという新しい不安を持つ場合が多い。その場合、どうするかをよく話し合わなければならない。通常、限定された連絡システム(例えば、メール連絡)を残しておくことも本人の安心につながる。 c : 薬物・アルコール依存症、そして、カルト依存などは、実は再帰率が高い。これらの場合には、元クライアントが相談を受ける側に立つことで、再帰を幾分でも防止することが出来る。 |

