立正福祉会 全国家庭児童相談室
相談事例集抄録

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いのちのケアー−僧侶として医師として

平成14年3月11日 東京品川区「ゆうぽうと」
講師:秋田県本澄寺住職・医師 柴田寛彦先生

心性院日遠上人(1572〜1642)が著したと言われる『千代見草』に“末期には薬をやめるべし”とあります。現代語に訳すると“末期には病気と薬が競うため、病人は苦しみもだえ、心も乱れる。薬を用いなければ自然に衰え、かつ心平静に最期を迎えることが出来る”ということになります。

私の患者さんの例では、肝臓に腫瘍のある91歳の男性が「何の治療もいらない」と薬も飲もうとせず、やがて水ものどを通らなくなって、最期は静かに息を引き取りました。見通しがないとわかった時にはむしろ“止める勇気”が必要で、その“見極め”が大切です。

臨死体験は死への恐怖・不安を薄らげてくれる大きな効果があります。実際、臨死体験をしたガン患者が、それまではいつもイライラしていた表情が変わり、穏やかな最期を迎えたという事例があります。臨死体験は宗教的観点から言えば、死への旅路のプロセスと言えるかも知れません。しかし、臨死体験は世界各地で報告されており、“こんな気持ちのいい旅立ちならば仏教を信じなくてもいいじゃないか”ということになりかねないので、安易に宗教と結びつけるのは危険です。

このことについて、『千代見草』に日遠上人が母の最期を看取った時のことが著されています。日遠上人の母は、亡くなる五十日前から毎日臨終のお経を読んでいましたが、亡くなる六日前から毎日、天童が舞っているような美しい幻想を見るようになりました。日遠上人は「臨終正念を乱し、天界に留まらせんとする魔の謀に違いない」と考え「さらに強くお題目をお唱えください」と指摘されたのです。すると母は幻想を見なくなり、安らかな最期を迎えたといいます。

ここでは、“仏の世界に入るためにはお題目・法華経をたもっていかなけらばならない”ということが説かれているのではないでしょうか。

次に、うつ病について。うつ病をきっかけに自殺に至ってしまう人が多くいます。私自身、そういう知識を持っていながらそれを防げなかったという苦い経験があります。

うつ状態の人に対しては、世間一般で対応しているような「外出して気晴らししてきたら」「精神力で頑張りなさい」という励ましは時に禁物です。

うつ病はストレスなど精神的な問題が引き金となって起こる脳内の物質的現象。そのため、まず抗うつ剤などの治療があって初めて周囲の精神的な支えが有効になります。この場合、時間はかかるが必ず治るという安心感を与えること、重要な決定をさせる場面をつくらないことなどが必要です。

まじめで自責感が強い人がかかりやすく、症状は眠れない・眠り続ける・頭が重い・体がだるい・食欲が無い・過食など。きっかけは配偶者との死別、転勤、昇進、定年などに多く見られます。

うつ傾向にあると思われる人には次の質問をしてみてください。

  1. よく眠れますか
  2. 食欲はありますか
  3. 仕事は順調ですか
  4. 新聞やテレビを見ていますか
  5. 朝と夜ではどちらが調子がいいですか(うつ状態では朝調子が悪い傾向)
  6. 死にたいと思うことはありますか
  7. 職場や家族の人に申し訳ないという気持ちがありますか

(5項目以上が1ヶ月以上続いているようなら要注意と質疑応答で指摘)

治療は専門家にお願いすることが絶対に必要です。なんとか話を聞いていい方向に向かわせようと思っていると、大失敗を招くことになりかねません。

次に宗教と医療の関わりについて。宗教から見て医療のプラス面は、苦や病への不安を取り除くことや、人間愛に基づいた技術であること。マイナス面は、臓器移植、不妊治療、クローン技術など、医学の進歩が人間の欲望を増大させ、新たな苦しみを生み出していること。これは人間を部品の寄せ集めとして捉えるもの。また、遺伝子研究のビジネス化など、心が経済で動かされている側面があります。

医療から見て宗教のプラス面は、心の安定が免疫力を高め、抵抗力の増大につながること。また、いかに生きるべきかを教えてくれるのは宗教。医学では治せない病気を、宗教的・神秘的力によって治癒に導く力があります。マイナス面は、宗教家は科学の進歩に否定的な見解をとることが多いこと。現実に苦しんでいる人たちの手助けをしていないという意見も多いです。「医師が懸命に努力したが、涙をのんで最期を引き取った後に僧侶は葬式の値段表を持ってくる」との批判もあります。病める人の側に寄り添って、その人の助けになることをしているとは言えません。

今宗教者に求められていることは、

  1. 「法華経生命倫理」の現代的諸問題への解答の提示(“脳死は人の死か、臓器移植は許されるか”などへの解答)”
  2. 「法華経の生命倫理」に基づく医療の倫理(法華経倫理の現場での応用法の提示)
  3. 医療関係者の人間教育(基本精神に慈悲を植え付ける)
  4. 病気・障害で悩み苦しむ人々やその家族に寄り添い、支える。
  5. 最期をどう看取るかの新しい方法論をつくる。
  6. 医療・介護の場の提供または既存の施設での活動の展開
  7. 法華経倫理などについて専門的に教育するシステムをつくる。

以上七項目だと考えています。

質疑応答

「今の精神科医師は精神療法、カウンセリングなどが教育されず、薬の投与が中心と聞いたが、その扱い方はどうなっているのか」との質問に、「もともと比重は少なかったが、最近はさらに薬だけで対応する傾向が強まり、精神療法やカウンセリングに真剣に取り組もうという医師が少ない。薬を飲んでいる人を精神的に支えていく役を誰がどのように担っていくかが課題です」と答えた。

また、「地方では、精神科にかかることへの社会的偏見が根強い。精神科での治療を勧める時、どのように言い出したらいいのか」という質問には会場内から「心療内科の先生に診てもらったらという言い方をすると納得して行ってもらえる」というアドバイスがでた。

(平成14年度研修会・第5回相談員研修会)

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